あれは確か大学3年の頃のことだったと思う。
作詞作曲部の先輩と、今はなき新宿の日清パワーステーションへボ・ガンボスのライブへ向かう道すがら、なにかのきっかけで同じ会場へ向かうふたりの女の子に話しかけた。
その子たちは東京女子医大の学生で、早稲田大学の音楽サークルに所属しているのだという。
そのうちのひとりの女の子、安(あん)ちゃんはキーボードを弾いていて、憂歌団エレカシが好きなんだって。
今でこそエレカシといえば知名度はあるが、当時は「生活」というほとんど全曲演説のような歌をがなりたてていた頃である。
そんなの聞いてる女の子に会うのははじめてだったから、もしよかったら今度ぼくらのサークルを覗きに来ませんかという話をした。
後日安ちゃんはぼくらのサークルを訪れ、好きな音楽のカセットテープを交換したり、ぼくが歌うライブハウスに足を運んでくれたりした。
それから何年も経ったある日のこと。
ともだちのビーザボイスのライブで共演していたsaigenjiさんのステージに、飛び入りでジョニ・ミッチェルの「All I Want」を楽しそうに伸びやかに唄う、ひとりの女性がいた。
saigenjiさんに紹介されたその女性は、ANN SALLYと言い、今度はじめてのアルバムが発売されるのだという。
顔を見て、はっと気付いた。
ANN(アン)さんて、安(あん)ちゃんじゃん!
偶然は偶然を呼び、その後発売されたアルバムのエンジニアはぼくの作品でもお世話になった谷さんで、アルバムの写真を撮影したのは奥さんの大学の同級生の井上くんだった。
ステージの後、再会した安ちゃんはお医者さんの道も歩んでおり、近々ニューオリンズに渡るのだという。
ずっと前に渡したカセットテープのぼくの歌のフレーズを、その夜口ずさんだ安ちゃんは、今では医者と歌手と母という、3つの顔を持つ。
みんなのうたで流れてた「のびろのびろだいすきな木」は、帆風のお気に入りだ。
お茶目な仕草の裏で、どっしり構えた凛とした佇まいは、今日の日本の音楽界の花である。
いつかまたどこかで会えるといいな。

アン・サリー http://www.annsally.org/
●BGM

free soul PARTY

こころうた

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