真っ赤じいさんは、いつも真っ赤な顔して、松平閣のロビーのソファに腰をおろしていた。

松平閣は、うちの母さんの実家の旅館。当時通り向かいに住んでいた、幼い僕の毎日の遊び場だった。
真っ赤じいさんは僕のじいちゃんの父さん、つまり曾おじいちゃん。毎朝温泉に入りに、息子の旅館へやって来ていたわけだ。

風呂あがりの真っ赤じいさんは、猿のような真っ赤な顔で、言葉少なにいつもニッコリ笑っていた。

「花火は今週末だよ」と今朝、松江の母さんから電話があった。松平閣の庭のすぐ向こうには、宍道湖があって、そこから毎年夏の2日間に渡り、花火が打ち上げられる。

テレビで観る隅田川の花火などとは、規模も仕掛けも比べ物にならないけれど、松平閣の庭から眺める宍道湖の花火は格別だ。
電車やバスを乗り継いで人ごみをかきわけることなく、目の前で花火をじっくり堪能できる。

今年は残念ながら、松江の花火は観れないけれど、来年はみんなで観れるといいな。

夏が来れば思い出す、真っ赤じいさんの笑顔と宍道湖の花火。